第29章 おつきさま【蜂楽視点】
「? これ……」
俺の顔が……たくさん描いてある。
つか、めちゃめちゃ上手…!
すっごく似てるし…!
「……っ、夢ちゃんっ……」
嬉しいのと情けないのと、ハーフ&ハーフな感情。
それでも眼から溢れてくる水滴は、共通だ。
白い紙の中で、俺が笑ってる。
喜んでる、ふざけてる、欲情してる、優しくしてる。
日付まで書いてあって、丁寧でマメな夢ちゃんらしい。
こんなの……描いてくれてたんだね。
俺のコト……
ホントにホントに愛してくれてるんだね───。
最後に描かれたページに、涙がポタリ。
日付はあの日の前日、ご飯ごちそうさましてる俺。
もう一枚めくって、白い紙を出す。
ちょうどこのクロッキー帳の、ラスト一枚。
「(……今日の俺なら、なにを描く……?)」
今まで夢ちゃんが描いてくれた、何十枚もの俺の表情(かお)。
この一冊の最後のページを飾るのは……
俺じゃない。
「……すき。だいすきだよ、夢。」
手を動かしながら、最近言えてなかった言葉が独り言で出てきちゃう。
鉛筆でラフに、自由に、生きてるみたいに……
“月”みたいに。
夢ちゃんの笑顔を、描いていく。