第29章 おつきさま【蜂楽視点】
あの日から一週間、夢ちゃんはウチにも帰らないし、学校もずっと休んでる。
パンクしてたチャリだけは、無くなってたけど。
俺から連絡したり、“K.K.”に行くのは違う気がする。
こんなキモチ、初めてだよ。
いつもの俺なら、どうにかなるって切り替えられる。
「廻、夢ちゃんと連絡とれた?」
優が蜂蜜コーヒーを飲みながら、俺に聞いた。
「とれてないよ。俺からもしてないし。」
「え…それ、どういうこと?もしかして…」
「お別れしたとか、そーいうのじゃないからね?」
そう思いたい。
俺達、そんなにすぐ壊れる関係じゃないよね?
「今日も学校、来てなかったの?」
「うん、そーみたい。」
「“K.K.”には行ってみた?」
「優…。俺、今はそっとしてあげたいんだ。」
「そう…だよね。あ…夢ちゃんが教えてくれた蜂蜜コーヒー、美味しい。」
「……うん。」
俺達ふたりが、溶け合うような味。
少しのほろ苦さが、俺の子供舌に刺さる。
───俺、なにしてんだろ?
夢ちゃんとセックスしたかっただけなんだ。
夢ちゃんの恋人になりたかっただけなんだ。
夢ちゃんが欲しかっただけなのに、どうして……
一週間経っても、細い首を絞めた時の感覚が
手に残って取れないんだろ?
その時のキミの表情(かお)は
なぜか覚えてないのに。
この辛くて辛い、キミがいない空白を……
創り出したのは、俺自身なんだ───。