第28章 兄と妹
「……でも……」
「あーあー、大丈夫だって。妹だぞ?さすがに変な気ぃ起こすなんて…」
「えと…二週間後、第一志望校の試験が…。
優さん…彼のお母さんに、絵を習ってて…。」
「そういや美大受けるって言ってたな。なるほどな。そんでアイツん家に居候してたのか。」
静かな店内を、突然ドアベルの音が破る。
蜂楽……?
根拠なく内容も解らない期待をして、ドアを勢いよく見た。
「よっ。カンちゃーん。」
お客さん。
バカみたい……何で蜂楽だと思ったんだろ。
あんなことがあってすぐ、来れるわけないのに。
「おーす、ノブちゃん。せっかく来たのに悪ぃな。今日これから臨時休業。」
「ええ、マジかよ?さては俺が面倒になったな?」
「ははっ、ちげーよ。先客がいんだ。埋め合わせはするよ。」
お客さんは、仕方無しに店を出て行った。
臨時休業なんて、私も知らない。
もしかして……私のため……?
「しばらく俺ん家だから着替えとか必要だろ?
家に取りに行くなり買い物なり…ひとりじゃ心細いだろ?」
私から眼を逸らして言うマスター。
ぶっきらぼうなその優しさに、また涙が溜まる。
「……ありがとう、ございます。」