第28章 兄と妹
「苗字が急に変わった後は、学校でイジメられた。今思えば、俺も周りも多感だったしな。
看護師の実母が女手一つで育ててくれて、人生なんとか持ち直したけど。」
「……そう、だったんですね……。」
初対面であるはずの私の名前を聞かなかったこと。
苗字は知る必要ない、と言ったこと。
身内を店に入れるな、と言ったこと。
不思議な安心感から、母の不貞を話してしまったこと。
蜂楽を殴ってまで……止めてくれたこと。
全部、繋がる。
「……あの。“K.K.”って店名にしたのは……。」
「俺は俺だ、って意味。“蜜浦”の言いなりになるオモチャじゃなく、ただの“蜘屋 環”だ、ってな。」
それで、イニシャルを店名にしたんだ。
マスターが自分自身を……取り戻すために。
「だから妹のお前には、幸せになって欲しいのよ。」
私の幸せって……なんだ?
デザイナーになる夢を叶えること。
蜂楽と本物の恋人になって愛し合うこと。
「あの彼氏といて、夢は幸せになれんのか?」