第28章 兄と妹
「そん時、お前はまだ2歳だ。幼いのをいいことに、両親は俺を死んだことにしたんだろ。
道から逸れた“悪い例”の兄貴を。」
自宅に家族写真が飾ってないこと、合点がいく。
蜂楽家のリビングに飾られた大切な思い出達と比べてしまって、寂しくなったことも思い出す。
「お前が母親と初めてココに来た時さ。
あの女、俺だって微塵も気付いてなかったろ?
二年間虐待した、息子だった俺に。」
少しの間、止めていた手を動かし始めるマスター。
ミルの音が、再び店内に響く。
「おまけにお前が見た不倫だろ?
マジで毒親ってやつだよ、お前の母親は。」
レモンティーの表面に、母親似の顔が映る。
さっき生理的に出てきたたくさんの涙で、目元は紅く腫れているように見える。
「……悪ぃ。あんなんでも、お前にとってはたったひとりの母親だもんな。言い過ぎたわ。」
「……ぁ……いえ。その通り……ですから。」
マスターがドリッパーにお湯をゆっくりと注ぐと、コーヒーのコク深い香りが漂う。
サーバーに落ちていくコーヒーの音が、静かな店内でやたら大きく聞こえた。