第28章 兄と妹
「それが“兄貴”ってもんだ…。」
マスターはぶっきらぼうに返し、語り始める。
「俺は……お前の父親と、その前妻の子供だ。
両親が離婚して、一旦は父親の蜜浦に引き取られた。
ガキの頃の名前は、蜜浦 環だった。」
コーヒーミルの音が止まった。
「父親は離婚後すぐ再婚した。お前の母親とな。
俺が10歳の時で、腹ん中にはもうお前がいた。
そんで始まったんだよ。両親とも医者っつう、
俺の地獄が。」
この人も、私と同じだ。
両親とも医者であること。
それが私の人生を、価値観を、狂わせかけた。
「医者になるために中学受験を強制されてな。
勉強が苦手だった俺は、毎日虐待されたよ。
継母(ままはは)である、お前の母親にな。」
また、お母さん……。
言葉がもう、出てこない。
自分の母親ながら、心底嫌になる。
「受験の年、小6だった。俺は壊れた。心を病んだ。
限界だった俺は学校に助けを求めた。どう言ったかも思い出せねぇけど。
それで発覚はしたけど。継母は医者っつう社会的に優位な地位で…なんかの間違いだろってコトでお咎めなしだった。
実母だけが俺を信じてくれた。それがきっかけで母親は、俺を蜜浦から取り戻せた。で、母親の姓の蜘屋になったってわけだ。」
私だって蜂楽に出会っていなければ……
マスターと同じように、壊れていたかもしれない。