第28章 兄と妹
温かく美味しいレモンティーで、少しずつ整う頭。
やっぱり、マスターが淹れてくれる紅茶は特別だ。
でも、蜂楽の家には……帰れそうもない。
「お前が初めてココに来た時から、気付いてたよ。」
マスターは、コーヒー豆をミルに入れて挽き始めた。
「ニ年間だけ家族だった……妹の夢だってな。」
瞼を薄く閉じるマスター。
彼には辛い過去があるのかもしれない。
けどそれより先も、私は知りたい。
知らなければ、ならないと思う。
“‘兄さん’は、もっとしっかり医学部受験に向き合ってくれた。
もう……いなくなってしまったけどな。”
親から与えられた情報は、信用できないから。
私は今、目の前にいる“兄”を信じたいから。
「……辛くなければ、聞かせてください。」
「今更、過去のことで辛さなんてひとつもねぇよ。」
手挽きのコーヒーミルは、ゴリゴリと音を立てて豆を砕いていく。
「今の俺に辛いことがあるとすれば、
お前が誰かに傷付けられることくらいだ。」
言葉が胸にツキンと刺さる。
さっきの蜂楽とのこと、心配をかけてしまった。
ちゃんとお礼も言ってない。
「……あの、ありがとうございました。
助けて、もらっちゃいました……。」
“助けてもらう”
自分が言った言葉に、ほんの少し違和感を覚える。