第28章 兄と妹
「折を見て言うつもりだった。
俺とお前は、異母兄妹だ。」
父とその前妻の子供……“兄さん”。
いたという話だけは、知っていた。
けど、私がうんと小さい頃に病気で死んでしまったって聞かされた。
物心ついた私がそれを掘り返そうとすると、異様に嫌な顔をされた。
写真も無ければ、法事の話も無い。
だから父も母も、いつしか私も……
“兄さん”の話を避けてきた。
その……“兄さん”なの───?
「……亡くなったって、聞いてたんですが……。」
「アイツらにとっては、死んだも同然だからな。」
お湯で温めた白いティーカップに、褐色のお茶が注がれる。
視線はカップに落としたままで、マスターは淡々と言った。
レモンをお茶にくぐらせてからカップをソーサーの上に乗せた後、彼は私に聞いてきた。
「蜂蜜、入れるか?」
蜂蜜は───蜂楽と私。
“俺達って、蜂蜜みたいだ。”
夏が来る前に、蜂楽が言った。
その時に初めて一緒に飲んだ蜂蜜コーヒーの味が
口の中に広がり始める。
蜂蜜を入れたはずなのに……苦くて、切ない。
あれからたくさん交わった。
心も体も……蜂蜜みたいにとろけ合った。
「……いりません。」
消えてしまいそうな、私の声。
淹れたてのレモンティーをそのまま口に含んだ。