第26章 いけないこと ✢
「(急に秋めいてきたな…。)」
自転車から徒歩になると、季節は気付かないうちに移り変わっていた。
少し寒くなってきて、あの温かくて大きな手が恋しくなる。
蜂楽と出会ったのは、春だった。
男子自体苦手だった私が、体の関係を持ち…
夏休みには同じ家に住むことになって…
瞬く間に距離は縮まった。
最近……廻が足りないよ。
水気が少なくなり、鳴る木の葉。
ひんやりしてきた、肌に刺さる風。
暑さが過ぎ外に出始める、人の声。
冷たい冬が……近付く音がする。
───コツコツコツ……
いつか聞いた恐怖までもが、後ろで鳴った───。
「(……ウソ、でしょ……?)」
近すぎず遠すぎず、適度な距離感を保った靴音。
後ろから……確かに聞こえる。
コツコツコツ……
尾行に気付いた、あの時と同じ……
コツコツコツ……
同じ、靴音。
「……っっ!!はぁ、はぁっ!はあっ…!」
怖いよ、助けて……!!
……廻っ───!!
「っ、はぁっ!!はっ……!!」
走って、逃げて……
壊しそうな勢いで“K.K.”のドアを押し開けた。
お客さんがいない、静まり返った店内。
いつも飄々としているマスターは……
きょとんと眼を大きく開いた。