第25章 渋みのミルクティー ✢
全身に、力が入らない。
親に振り回されるのが……心底疲れた。
頭はぐちゃぐちゃなのに、心が空っぽだ。
店内には、お客さんがいる。
エプロンを着けて、髪をまとめなきゃ。
必死で冷静を取り戻したくて、バックヤードへ行こうとした。
その後ろ手を、マスターに掴まれて驚く。
「まだ5時じゃねぇ。時間外労働だ。」
掴まれた手が……妙に、熱い。
「ちょうど新しい茶葉が入った。飲めよ。」
促されるままカウンター席に座った。
真っ白な頭のまま少し待つと、ウバのミルクティーを出される。
「ウバは渋めだからミルクと好相性だ。
今のお前には、甘さが必要だろ?」
力の入らない指が危なっかしくて、震える両手でティーカップを持って傾けた。
茶葉が本来持つタンニンによる渋みを消しすぎず、ミルクとシュガーで程よく和ませてある。
でも大人味の渋みも、この紅茶には必要なエレメント。
“甘さ”だけじゃない。
ちゃんと私を気にかけてくれる優しさの中に
職人気質な頑固さと実直さの“渋み”を兼ね備えた味。
マスター、みたいだ。