第4章 記憶
美術館に来るまで完全に消されていた、幼い頃の記憶。
そうだ私、絵が好きだったんだ。
父も母も仕事仕事で…
ひとりで遊んでばかりだったから。
でもなんで…忘れてたんだろう……?
気付けば気になった絵を10分以上観ていて、飽きた蜂楽は私の横で子供と化していた。
「夢ちゃーん、手ぇ繋ぐー。」
「…ん。」
「素直じゃん。にゃは、スベスベ〜♪」
「……」
「ねぇねぇ俺のコトも見て〜。今、カレシなんでしょ〜?」
甘えた声を出す蜂楽は、とても高校2年生の男子には見えない。
「そんなに絵観たかったら、俺ん家くる?」
隣でしゃがみ始めた蜂楽が、私を上目遣いで見て言った。
「え?」
「優…俺のママね、絵描きさんだから。優の絵が、俺は大好き♪」
いつもながら自信満々に言う蜂楽がすごい。
それに、お母さんのこと名前で呼んでて…
仲良しなんだろうなって、蜂楽から既に伝わってきて。
自分の息子に誇ってもらえるなんて、きっと、素敵なお母さんなんだろうなって……
───……。
“俺ん家くる?”
“俺ん家くる?”
“俺ん家くる?”
蜂楽が言ったこの言葉が…脳内でグルグルする。
“俺ん家くる?”
蜂楽の声が、“あの人”の声に段々と置き換わっていく───。