第22章 一日一顔 ✢
「“K.K.”の意味?」
「はい。」
マスターは私の顔をじっと見て、ゆっくり一歩ずつ近寄ってくる。
私も一歩、また一歩と後退する。
なんだかまずいことを聞いてしまったんだろうか。
近付いてくるその表情は、冷たい。
「……俺のイニシャルだよ。」
至近距離まで近付かれて、無感情な低い声で言う。
「へ?イニシャル……?」
「俺、蜘屋 環(くもや かん)だから。名前。」
この一週間、慣れない生活を回すのがやっとだったから、名前も聞いてなかったことにやっと気が付く。
何の気なしに、ずっと“マスター”と呼んでいたのだ。
責められてるみたいに距離を近くに詰められて、
何を言うのかと思えば……
思わせぶりな割に、随分シンプルな由来に拍子抜け。
「……あっはは!全っ然、捻りないですね!」
「うるせーよ。」
「マスターって面白いですね!」
「お前もう時間だろ?あがれ。」
シフト終了の午後5時を時計が指す。
これから帰って、夕飯の支度して……
優さんに、ロゴの最終とデッサン見てもらって……
それから、それから……蜂楽と……
「迎え、来てんぞ?」
窓ガラスを指差すマスター。
外からベタッと張り付いて私を見てる蜂楽に驚く。