第21章 父と母
「……夢。お前はやっぱり“兄さん”とは違うな。」
ため息混じりに父は言う。
「“兄さん”は、もっとしっかり医学部受験に向き合ってくれた。
もう……いなくなってしまったけどな。」
絶対に、否定的なことを言われるのは解ってた。
でもこのタイミングで、そのワードを出すことは
父親として……ダメでしょ?
「“あの子”はもう死んだ。その話は止めて。」
母は“兄さん”の話になると、いつもイライラする。
父の、前の奥さんの子供……だからかな。
「俺は認めない。いつかその道を選んだことを、
お前は後悔することになる。
望んだようになると思ってるなら、身を以て証明してみせろ。泣きついてくるのが目に浮かぶ。」
父は椅子から立ち上がった。
「お前がちゃんと、夢を見ていないからだ。
“あの子”だけが……俺の希望だった。」
スマホを持って玄関を出て行った。
その父の後ろ姿は……昔より小さかった。
「なんなの。自分だって県議なんてして全然帰らないくせに。夢のこと、私に任せっきりじゃない。」
この人達にとって、私は厄介者だ。
やっぱり私……ここにはいたくない。
「……ま、いいんじゃない?
私はあの人みたいに、頭ごなしに否定はしない。」