第19章 お守りみっつ
「蜜浦さんっ、おつり!早く渡して!」
「……あっ!ごめんなさい!ボーッとしちゃって!すいませんすいません!!」
クラスの模擬店で、私は使い物にならなかった。
これならいっそのこと、何も考えず見回りしてたほうが醜態を晒さなくて済む。
脳内を蜂楽が占める。
この暑さの中すぐに蒸発する水分みたいに、水蒸気になってくれれば楽なのに。
「あ、そうだ。さっき蜜浦さんいない時に、彼氏クン来たよ?」
……もうこれ以上は、考えたくないってば。
「“夢ちゃんいるー?”って3年の教室にフツーにタメ口でさぁ。面白い子だね。今、めっちゃ人気者なんでしょ?」
「あっはは…うん、そうなんだよね…。」
蜂楽は何があっても、やっぱり蜂楽だ。
私が本部にいる間に、ここに来たんだ。
スマホはガン無視してるし、すっごい探してそうな気がする…。
「ちゃんと会えた?生徒会忙しそうだけど、一緒に回れてる?」
本当ならそのはずだった。
お互いに“違う人”と、キスなんて交わさなければ。
だから私は……ムカついたんだ───。
「ありがとね。ちゃんと楽しめてるよ。」
他人への作り笑いが、顔の筋肉に刻み込まれてる。
楽しめてるわけ、ないじゃん。
楽しむはず、だったのに。
お揃いのミサンガと、髪型。
このふたつの“お守り”に祈ったのに。
私と蜂楽の文化祭が
楽しいものになりますように、って───。