第15章 おそろい ✢R15
「ずっと好きだった人と、その子は付き合ってた。だから中学時代は、楽しいことなんてなかった。」
蜂楽は解りやすく表情を和らげ、私が結んだ自分の前髪を触った。
「でも今は違う。廻がいるから、私は毎日楽しい。」
バッティングをすると、嫌なことを忘れられた。
ピッチングマシーンの規則的な投球に、自分の規則的なスイングがジャストミートした時。
ストレスが吹っ飛んでいくような快感が走ったのを覚えてる。
これを教えてくれたのは……父だった。
小さい頃、本当に片手で数えられるくらいの回数だけど。
学生時代に野球をやっていた父が、私に教えてくれたこと。
思えば父から教わったことなんて…これくらいだ。
「俺も夢ちゃんと出会って、人生変わったよ♪」
蜂楽はニカッと笑い、バッターボックスに入った。
「夢ちゃん、スキニーの時、おしりがエロい♡」
「っっ!!黙って打っとけ!!」
蜂楽は私を、子供にしてくれる。
人生を変えるきっかけを貰ったのは、私の方。
でもこれからは…
私自身の力で、切り開いていかなければならない。
ひとりで絵を描いて遊んだあの頃。
あの夢中だった気持ちは……
まだ私の中に、生きている。