第13章 もう泣かない。
「(……気のせい、気のせい。)」
コツコツコツ……
近すぎず遠すぎず、適度な距離感を保った靴音が続く。
「(ウソウソ!やだ、こんな時に……!)」
少し速歩きしてみる。
コツコツコツ……
「(追いかけて、くる……!)」
……待って、よく考えたら。
蝉川は今……合宿にいるはずだ。
尾行してるのは、蝉川だと思ってたのに。
それなら……
コツコツコツ……
───誰なの……?
「……っ!!」
さしていた傘を畳んで走り出した。
真正面から雨が当たり、顔が濡れる。
あのコツコツという足音。
あれは多分……
蝉川の足音じゃ、ない。
大人の男の、足音だ。
「はっ……はぁっ……は!」
走って走って、息を切らして。
雨に濡れても転びそうになっても、走り続けて。
怖い、怖い……!怖い!!
怖いよ、助けて……蜂楽……!!
……廻っ───!!
「……はぁ、はっ……」
家に着いて息を切らす私の目の前に……
「夢ちゃん。」
合宿に参加しているはずの蜂楽が、しゃがんでいた。