第12章 かいぶつ【蜂楽視点】
ぐずついてた梅雨空が、ついに泣き出した。
小雨が降り始めてちょうど自主練時間に入って、俺達はハーフコートに入った。
コイツが、売られた喧嘩は買う単純バカなのは知ってる。
俺は、こんなクズになんて負ける気がしない。
「はぁい、キックオフ。」
なぜなら俺の中には“かいぶつ”がいるから。
サッカーやる時のいつもの“かいぶつ”だけじゃない。
蝶野(メガネ)を追い払う時に舞い降りた、
もうひとつの……
サディズムの“かいぶつ”が。
「はい、来た。スキありー。」
何度も引っ張られたり、タックルされたりして転ばされた。
雨のせいで全身泥だらけ。
でも、俺は負けない。
目の前のボールだけに……
没頭しろ……!!
「足止まってんよ、OBのオッサン?転ばすだけが脳とかザコすぎっしょ。クソゲー史に残るよ、これ。」
「てめぇこそ口だけかよ、クッソガキが!クソゲーからまだ1点も取れてねぇ幼児プレーヤーがよぉ!!」
「寝言は寝て言えクソザコ。抜いてみろよ。格の違い、見せてやるから。」
蝉川(コイツ)のサッカーはよく知ってる。
力任せで、モーションのデカい攻撃。
安直な猪突猛進タイプだけど、パワーはある。
だから俺の、繊細なボールタッチと自由なアイデアに…
勝てるはずないんだよ?