第10章 わすれもの
「あ…ありがとう。わざわざ買ってきてくれたんだ。」
「困った時は、お互いさまですからにゃ♪」
ああ……そんなに眩しい顔でニコッと笑わないでよ。
昨日、あんなことがあったばかりなのに…。
今、その笑顔を見ると……
好きすぎて……辛くなっちゃうから。
「夢ちゃん?」
「ごめっ……なんで、かな……涙、あれ?とまんないっ……。」
眼から勝手にポロポロと涙が溢れる。
泣いたって、ダメなのに。
思い通りにいかないのは、私のせいなのに。
「廻っ、ごめんね……。きのう、ごめんねっ……。
嫌いにっ……ならないでぇ。」
自分から蜂楽を傷付けておきながら、身勝手にも程がある。
こんな自分が、大嫌い。
「……嫌いになんか、なるかい。」
それなのに、蜂楽は私を抱きしめてくれた。
玄関先で立ち話だから、床の段差で、蜂楽と私の身長差はほぼない。
「二度と言っちゃダメ。そんなコト。」
ゼロ距離の、顔と顔。
喋っただけでも声の振動を感じ、静かな呼吸音が聞こえる。