第8章 いつも
学校に行くとき、いつも朝、逢坂くんは私の家の近くの公園で待ってくれてる。
そして一緒に登校するんだ。
「ごめん。この間借りたマンガにコーヒーをこぼしてしまって…これ」
そう言って逢坂くんが書店の袋を差し出す。
「え?もしかして新しく買ってくれたの?別にいいのに」
袋の中には真新しいコミックスが一冊。
私が貸したのと同じもの。
「いや、借りた本を汚してしまうなんて…本当に申し訳ない」
逢坂くんが申し訳なさそうに表情を曇らせる。
そういう顔も好き。
「読んだ?どうだった」
私はカバンにしまいながら尋ねる。
「そうだね、あの主人公は…」
彼の口から私と同じものを読んだとは思えないような考察が語られる。
内容は半分くらいよくわからない。
ただ彼の形のいい唇から素敵な声で難しい言葉が語られるのが好き。
「…だと思うんだ。ゆめちゃんはどう思う?」
彼が私に問いかける。
「うん。私もそう思うよ」
私はにっこり笑って彼の顔をみる。
彼も私の顔を見て満足そうに微笑む。
思わず手を繋ぎたくなっちゃう私は自分の手を後ろ手に組んでそれをガマンする。
朝の登校時間はただ並んでおしゃべりしながら歩くだけ。
でも私はこの時間が大好き。