第1章 初めまして
そうだ。
急に現実感がなくなってたけど、ここは学校の正門の前だった。
同じ2年だし行き先はだいたい同じだから、なんとなく私も彼の後ろを歩く。
こんな怪しい人と一緒に歩いていいのかわからないけど、朝の登校時間で人はいっぱいいるし大丈夫かな…。
斜め後ろからそっと彼の横顔を覗いてみる。
さらさらストレートの黒髪に少し隠された切れ長の目。
黒髪よりも深い色の瞳。
形のいい鼻と唇。
身長は私よりも10cm…いやもうちょっとかな?高い感じ。
スラリと背筋が伸びて足も長くて…はっきり言ってかっこいい。
(同学年にこんなかっこいい人いたんだ。E組って言ってたっけ。クラスが離れてるとわからないもんだな)
見られていることに気付いた彼が振り向き、目が合う。
にっこりと彼が笑う。
…
心臓がドキドキ鳴る。
「僕、文芸部なんだ。君も文芸部に入らない?文芸部はいい所だよ」
彼の声がすごく素敵なのにも気付いてしまった。
高校生とは思えないような落ち着いた優しい声。
ちょっとセクシーにも感じる。
「えっと文芸部?えっと…」
間抜けな返事しか出来ない自分が情けない。
「まあ、その話は今度ゆっくり」
彼はそう言って立ち止まり、私の方に身体を向けた。
ふと気付くと私たちはA組の教室の前まで来ていた。
なんかフワフワしててよくわかんない。
いつの間に。
「寂しいな。よりによってA組とE組。一番教室が離れている」
彼はそっと目を伏せた。
憂いを帯びた切れ長の目に長い睫毛がはっきりと見える。
私が思わず見惚れていると、彼はふふ…と小さく笑った。
「でも仕方が無いね。今日も君の事を考えて退屈な授業を乗り切るよ」
「……」
「今日は部活の用事がないから一緒に帰ろう。迎えに来るからここで待っていてね」
そう言って彼は小さく手を振り、廊下を歩いて行った。
E組の方向に。
そんな彼の後ろ姿を私はただぼんやりと眺めていた。
これって現実?
妄想し過ぎで私、変なことになっちゃった?
「ゆめ、彼氏いたんだ!結構カッコイイね!2年?何組なの?」
教室の扉の前で突っ立ってた私に、クラス替えで仲良くなったばかりの女の子が走って来て声を掛けた。
「あ…E組…。…だって」
私にだけ見えてる人ではなさそうだ。