第5章 好きなの
「そういう設定だから?」
自分でもびっくりするくらい冷たい声が出た。
「え…?」
「逢坂くんはそういう小説を書きたいから…私みたいになんの取り柄もない普通の…ちょっとバカな女子高生の小説を書きたいから…。そんな風に言うんでしょ?」
後半の方はちょっと問い詰めるような口調になった。
「そんな…。そんなことない。僕が君をモデルに小説を書きたいのは本当だけど…。書きたいから好きなんじゃない。君のことが好きだから書きたいんだ」
そう言って彼は私をそっと抱き寄せた。
暖かくて…いい匂い…。
「私のことなんて何も知らないくせに。私がどんなコか知らないくせに…」
「知ってる!全部知ってる。君は確かに普通の女子高生だけど、特別で…僕にとって特別な女の子なんだ」
彼は少し身体を離して私の顔を見つめた。
そして彼の指で私の目からこぼれた涙をそっと拭った。
「君が必要なら…。いや必要でなくても。何度でも言うよ。僕は君が好きだ」
私はギュッと彼の身体に抱きついた。
生身の逢坂くんの身体。
制服のシャツごしに彼の体温と、鼓動を感じる。
彼の顔を見るために身体を離して顔を見上げる。
彼が私の頬をそっと持ち上げる。
待ちきれなくて私は彼の唇に唇を重ねた。
柔らかい…。
ファーストキス。
自分からしてしまった…。
あわてて唇を離す。
すると彼は私の後頭部に手を添え、グッと引き寄せる。
そして再び唇を重ねる。
そして彼の舌がそっと私の唇に触れる。
いきなり…ディープキス…。
と思ったけど私からキスしたんだった。
私もそっと舌を出して彼の舌に触れてみる。
唇の隙間から彼の舌が差し込まれる。
ちょっとビビって引いちゃう私の身体を彼がグッと引き寄せる。
覚悟を決めて私がそっと唇を開くと、彼の舌が私の舌に絡みつく。
「…ん」
息が苦しいのと、どうしたらいいのかわかんないので正直気持ちいいのかよくわかんない。
彼の唇が離れてホッとした瞬間、私の身体はベッドに押し倒された。
「ゆめちゃんのこと…知りたい」
彼は私の目を見つめて言った。
私は小さく頷いた。