第1章 出会いと宿命
愛想が特別良いわけではないが、女中たちに人気のあった桜は、思い悩む一人の女中に声をかけた。
顔が悩んでますって書いてある。
桜「何かあった?」
お菊「。。。別に」
桜「私で良ければ聞くけど」
お菊「桜にも言いたくないの」
お菊は城に入ってすぐ、奴隷だった私を差別もせず穢れた存在としても扱わず、目を見て話してくれた友人だ。
彼女は私を好いている。
なんとなく分かる。
同棲だが、彼女が他の女中に向ける眼差しと私に向ける眼差しは違う。
菊と桜は二人とも華の名前だね。なんて笑いあって
桜「お菊の方が桜っぽい。ふわふわして可憐で儚い様子だもの」なんて言った事があった。
お菊は顔を真っ赤にして「桜になりたい」と一言言った。
なんとなく気まずいような居心地が不安定な時期も過ごしながらも少しずつ信頼関係を深めていた。
思い悩んだ様子のお菊を心配して桜は元気づけようと色んな話をした。
お菊は「桜は強いね。桜みたいになりたかった…」
とこぼした。
桜は(なりたかった)という過去形を聞き逃さなかった。
お菊は死ぬんじゃないかと思った。
かつての自分がそうだったように。
桜「…っお菊死なな…いで」掠れた声を絞り出す
お菊は目をまん丸にして、満面の笑みを浮かべた。
お菊「はぁ?やだぁ~そんなんじゃないよっ」
桜「嘘だ、お菊が死なないで、私には分かる」
お菊「…ぅっ」
天を見上げ涙をこぼさないようにしたのか、噛み殺したような声でつぶやいた
お菊「桜は、秀吉様が大事よね」
桜「うん 命に代えてもお守りする」
お菊「私は…私は…」
嫌な汗が背中を流れたのを感じ、桜は唾をのみこんだ。
お菊「あの方が憎い…あの方の寝首をかくために私はここにいる」
桜「…!!!!」
(あの秀吉様が?あんなに愛されて慕われている秀吉様が?信長さまならまだしも。)
お菊「あんたが、秀吉様に言うならそれでも良い、もう私は止まれない。」
桜「お願いやめて、お菊。お菊に死んでほしくない」
不思議と冷静だった。
(お菊に秀吉様は殺せない。)
でもこのままじゃお菊が死ぬ。
桜は震えながら懇願した。
覚悟を決めたお菊は桜を振り切り廊下を去った。
呆然と見つめる桜。