第3章 【R指定】【ヒロアカ】白から黒、そして白【荼毘・燈矢】
強い雨の降る夜に、私は彼と出会った。
「っ……う……ぅ………。」
路地裏から聞こえてくるうめき声に、私は足を止めて薄暗い細い路地に体を入れた。
雨の音に彼の声が消されなかったのは、ただの偶然か。
それとも聞き慣れた痛みを堪える声に、私の耳が慣れているからなのか。
私は蹲って雨に打たれた体を地震で抱えている少年を見つけた。
その予想通りの光景にため息を吐くと、ゆっくり少年に近づく。
雨でぬかるんでいる地面に体を倒しているからか、彼の真っ白な病衣や白い髪の毛までも泥で汚れていた。
暗くて遠くからでは見えなかったが、見えている肌の殆どに皮膚を移植した様な痕があった。
一目見てすぐに彼が病院から抜け出したのだと分かる。
その病状も決して良い状態じゃ無い事も分かった。
私は医療行為を行えるが、慈善活動をする趣味は無い。
私が出来る事はここに救急車を呼ぶ事だ。
鞄に入っているスマホを取ろうとすると、足元から低い声が漏れて来た。
「………人を…呼ぶな……。」
薄っすら目を開けた少年の青い目が私を睨みつける。
なら、この少年を放っておくか。
勿論そんな事も出来やしない。
「………死んでもいいのね…。」
「まだ死ねねぇよ……。」
どうやらこの少年は生きたい様だった。
私は少年の体に自分の手を向ける。
私の個性は「ヒーリング」だ。
体の治癒では無く、心の治癒だ。
興奮している少年を落ち着かせようと、私は彼に治癒を施す。
私の個性を警戒している様だったが、自分の心が落ち着いていくのが分かったのか、少年の目から殺気が少なくなっていった。
『殺気』
そうだ。この少年はどうやら人を呼んだら私を殺すつもりだった様だ。
とんだ拾い物をした様だ。
私は少年が目を瞑るのを確認すると、汚い地面から少年の体を剥がした。
いつからそこにいたのか、ぬかるんでいる地面にはクッキリと少年の形が形どられていた。
家が近かったのは幸いだ。
これではタクシーは乗車拒否だろうから。
小さくため息を吐いて、私は少年を担いで自分の家に連れて行く。