第2章 中毒ロマンス(五条視点)
彼女の体の前で組んでいる小さい手がカタカタと震えている。
取って食うわけじゃないし、そんなに怯えないで欲しいんだけど。
「やっぱ……僕、遊ばれた?」
わざと残念そうな顔をすると、お人好しの彼女には響いたらしい。
そんなつもりじゃ、と焦る表情をされたので、こちらも悲しそうな演技を続けてみる。
もうひと押しでこの手の中に彼女が落ちてきそうだ。こみ上げる笑いをぐっと我慢する。
「じゃあゆめか、僕の彼女になってくれる?」
怒りがトーンダウンしたゆめかを抱きしめて、甘える口調で問う。
君を手に入れるためなら嘘も罪悪感も武器にする。
長い沈黙のあと、控えめに「はい」と聞こえた彼女の返事に顔がニヤけてしまう。
抱きしめていて、顔を見られなくて良かったと心底思う。
付き合っても、ゆめかの心を完全に手に入れるまでは油断できない。これからゆっくりと僕を知ってもらう。
まずは高専の奴ら全員に、ゆめかは僕の婚約者だと根回しを始めるところから取り掛かろうか。
ゆめかに逃げられないように、外堀を埋めるのは大事だからね。
「ずっと君に会いたかった」
その一言だけで、恥じらって頬を染める彼女が愛おしい。僕の下で快楽に溺れる姿を思い出し、今すぐにでも彼女を抱きたいと切望してしまう。
中毒症状とも言えるその衝動と欲望を抑えるように、困惑して視線を泳がせるゆめかの額に口付けをした。
END.