第1章 ご主人様の言うとおり
世間は意外と狭いもの。しかも相手は畏れ多くも、界隈で有名な特級呪術師。
二度と会いませんようにと願いながら過ごしていた私に、再会したあなたは「会いたかった」と囁いて抱きしめてきた。
相手は名家の跡取り。どうせすぐ飽きられるだろうと、根負けして交際にOKを出したのが運の尽き。
ものすごい早さで外堀を埋められ、いつの間にか「婚約者」として周知されていて、私は言葉を失った。
体の相性は抜群だけど愛が重いし、度重なる性格の不一致に辟易。
逃げきる方法は無いのか、家入さんや伊地知さん、夜蛾さんや七海さんに泣きついた。皆そろって困ったように首を振るばかりで四面楚歌状態だった。
「ゆめかも可哀想にな。五条が執着するって滅多にないから、恐らく地獄の果てまで追いかけてくると思うよ。ご愁傷様」
と、憐憫(れんびん)の眼差しを家入さんに向けられて絶句した。
早い段階から身体を暴かれて開発され、骨の髄まで彼の味を覚えさせられ、変態プレイにも手を貸し、現在に至る。
「体の相性が良すぎてさ、しかもゆめかの匂い嗅いでると昂ぶってきちゃうしで、僕の本能が『この娘を逃がすな』って言ってるから諦めてよ」
そう言う彼に求められるまま、本能と欲求に従って体を重ねるたびに感じやすくなっていった。
悟に依存することも、淫らに変わっていく自分のことも、体に心が追い付いていかない現実も、だんだんと恐くなって別れ話を切り出したこともある。
「残念、もうゆめかは逃げられないよ」
と、心底嬉しそうに微笑んだ悟は、私には別人に見えた気がした。ぼろぼろと止まらない涙を流しながら、大変な人に捕まってしまったと絶望しながら抱かれた。
連絡手段も退路も断たれ、彼の部屋で組み敷かれて丸一日与えられる快楽に陥落した。
これからも彼から愛情を与えられ、泥沼に嵌まるように、抱かれる未来しか選択できないと悟った。
けれど、最強と謳われるあなたの苦悩を知り、弛まぬ努力を知り、特級呪術師も血の通った人間であることを知って、彼を支えようと思えるようになった。
――どんな未来が待っていても、彼の傍を離れることはないのだと、この時の私はそう思っていた。
END.