第6章 ご主人様のお気に召すまま【後編】
温かな彼の重みを素肌で感じながら、いつもの戦い続きの日々とはかけ離れた、平和なひとときを噛み締める。
「ねぇ、ゆめか。婚約も解消できて、僕と別れて、完全に自由の身になれるとしたらどうする?」
不意に下から聞こえた彼の呟き。
その内容に耳を疑って、バッと悟を見た。
「悟、急にどうし……」
「ゆめか、どうする?」
微動だにしないアクアブルーの瞳が、困惑している私の顔を映し出していた。
感情が読み取れない表情で、悟は私に問い続ける。
もしかして、何か彼に試されているのだろうか。
気まぐれで聞いてみただけか、本当に私の気持ちを知りたいのか、現在のテンションからは心中を推し量れない。
だとしても、私の答えは決まっている。
「前に約束したでしょ?私はあなたのそばにいるって」
酔いどれで初めて彼に抱かれた時も、私の傷付いた心ごと優しく撫でる温かい手と、心地好い声と匂いで、この男性に一晩溺れても良いと思ってしまった。
特級術師でなくても、六眼や無下限呪術が無くなっても、名家の五条家の当主でなくても、お金持ちでなくても、きっとシワシワのおじいちゃんになっても、私はこの人が愛しくて抱き締めるだろう。
「変態なところは玉に瑕だけど、悟が私のことを大事に思っていてくれてることは知ってるよ」
「ゆめか……変態は余計」
「いやいや、こんな衣装を用意したあなたに、変態以外にどんな言葉が似合うの」
「絶世の美男子とか、GTGとか、抱かれたい男No.1とかさぁ。あるでしょ、僕にふさわしい呼び名……!」
「無いと断言できる」
「ゆめかの塩対応、嫌いじゃないよ」
“最強”の称号と、五条家当主という立場と、生徒を見守る教師。いつだって、彼は誰かに寄りかかられる存在だ。
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