マイナス、のちゼロ距離センチ【WIND BREAKER】
第2章 スーパーヒーロー、その名はボウフウリン
「うん。男の子がカツアゲに遭ってるって、詩音さんが教えてくれたんだ」
「そうだったんだぁ。……君は優しい子だね。ありがとう」
「い、いえ……!そんな……!」
……確かにカツアゲから男の子を助けることはできたけど、その後のことを思えば感謝の気持ちを素直に受け取るのは躊躇われる。
「謙遜しなくていいのに……ねっ、ツゲちゃん」
「せやで。君、ナイスガッツや」
「…………」
……柘浦さんの顔色はさっきよりかは良くなったけど、声量は変わらず小さいまま。最初の大声と蘇枋さん達と話してる時の声とは大違いだ。
それに対して、まだ出会って間もないけど、何だか彼らしくないなと思う。私を視界に映すまでの柘浦さんの方が、自然体で生き生きとしていた。
(……そういえば、桐生さんが言ってた。あの時柘浦さんが謝ったのは、私を怖がらせたと思ったからだって)
どうやら、原因は自分にあったようだ。
なら、きちんと伝えなければいけない。確かに顔色を悪くしていたけど、それは申し訳なさからで決して恐怖からくるものではないことを。
意を決して柘浦さんを真っ直ぐ見つめる。そしたら彼の肩がビクッ、と震えて申し訳なく思うけど、誤解を解くために私は口を開いた。
「あの」
「な、なんや?」
「私、柘浦さんのこと怖いと思ってないので、普通に話して大丈夫ですよ」
「!」
怖がっていないとちゃんと伝えるため、安心させようと私はにこり、と笑う。すると、柘浦さんは驚いた様に大きく目を見開いて、すぐに顔を俯かせてしまった。
一連の動作を見て、上手く伝わらなかっただろうかと不安になったのも束の間、彼が勢いよく顔を上げた。
「ホンマか!?よかった〜……!」
次いで聞こえてきた、小声ではなくなった柘浦さんの元気いっぱいの声。その表情は、心底安堵したと言わんばかりの、輝かしい笑顔だった。
キラキラと活気に満ちたその姿を見て、私も安心する。最初に思った通り、彼にはこっちの方がらしくてお似合いだ。
思わずそのことを告げると、柘浦さんは照れ臭そうに頬を染め、大きく口を開けて笑い出した。