第5章 憂いとけじめの青
「寮に戻ろうか」
「え……あ、これぐらい平気だから」
恥ずかしくてジタバタするが、お兄ちゃんはそれを意にも介さず、私を抱きかかえたまま歩いていく。
「でも、その足では歩くのが辛いだろう。裸足で戻る気かい?」
そう言われて、私は言葉に詰まった。
確かに、この足では下駄で歩くのが大変だろうし、傑お兄ちゃんに心配を掛けたくない。
けれど、相手の負担にはなりたくなくて、少し葛藤した後、口を噤んだ。
「……ありがとう」
ポツリと、そう小さく呟くと、
「ゆめなら、いつだって喜んで抱えるよ」
と言われた。嬉しさと気恥ずかしさに、私は小さく笑う。
「お兄ちゃんって、私の事好きだよね」
素直な感想を口にすると、私を抱き直す手の力が強くなった。ふと見上げれば、動揺したように視線を泳がせるお兄ちゃんがいた。
からかったら、いつものように軽口が戻ってくるかなと思ったけれど、違ったらしい。
彼は咳払いをした後に、小さく息を吸った。
「きっと、呪いになるほど好きだよ」
そう告げた時のお兄ちゃんは、酷く真剣な眼差しで私を見つめていた。
私は思わず息を飲んだ後、堪らなくなってその首に抱きついた。
「お兄ちゃんになら、呪われてもいいよ」
「……私も、ゆめになら呪われても構わない」
ああ、やっぱり私はこの人が好きだ。
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