第13章 白夜の陽炎✿
至近距離で見つめられた私が、ふいと顔を横に逸らそうとすると、悟は許さないとばかりに頬に手を添えた。
私は赤い顔を見られたくない一心で顔を背けようとして、しばらく無言の攻防戦を繰り広げた後、観念して悟の方を向く。
「ほらほら、ゆめこっち向いて」
「やだ。今、変な顔してるから」
「はぁああ……ゆめが年々可愛くなってくから、僕の心臓が爆発しそう」
「イイ歳した大人に何を言う。そっちは年々言動が退化してない?昔はそんなこと言うタイプじゃなかったでしょ」
「ゆめの前では、ただの五条悟に戻れるんだから大目に見てよ」
視線が交わると、彼は満足げに微笑んで軽く口付ける。
私の肩口に顔を埋めるようにして擦り寄ってくる仕草が可愛くて、大きな背中に腕を回して体を密着させると、彼の鼓動が伝わってくる。
白い大きなワンコみたいで、なんだか癒される。
「そういえば、寝てる最中に色っぽい声も出してたけど、他にはどんな夢見てた?」
「え?うーん、わかんない。なんか、すごく楽しい夢だった気がするよ」
悟の質問に返答しながら、ぼんやりとした頭で記憶を辿る。けれども、思い出そうとするほどそれは霧散してしまう。
高専時代の淡い後悔の余韻を残して大人になった今も、私は度々傑お兄ちゃんの夢を見る。
「あ、夢に悟も出てきた……ような」
「夢でも会いたいってやつ?相思相愛だね」
「ん、違うな……傑お兄ちゃんといたかな」
「……ゆめ」
独り言を口にする私の横で、上機嫌だった悟の声が急に低くなる。名を呼ぶ声はどこか怒りを孕んでいるようにも聞こえた。
不穏な空気を感じて悟を見たが、彼は私の肩に頭を押し付けたまま表情を見せてくれない。
不安に思い始めた頃になって、ようやく顔を上げた悟はムッとした様子で睨みつけてきた。
「ゆめが浮気した」
悟が駄々っ子のように唇を尖らせながらそんなことを言い出すので、私は呆れて溜息を吐く。
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