第1章 背徳は蜜の味✿
「オマエらって似てねーよな。ほんとに兄妹か?」
不快な蒸し暑さに悩まされる7月の始め。
暇になった午後、高専の寮の談話室で皆でアイスを頬張る中、真っ先に食べ終えた五条先輩が私と傑お兄ちゃんを指差す。
「悟、一人だけ手持ち無沙汰だからといって、人は指差しては駄目だと教わらなかったかい?」
ファミリーパックの箱を丁寧に開けると、個包装のミカン味の棒アイスを一本取り出す傑お兄ちゃん。それを差し出され、サングラスから覗く青い瞳が不服そうに細められたが、五条先輩の手はしっかりとアイスの袋を握っていた。
先輩の鋭い指摘に、残りの雪◯だいふくを食べようとしていた私は、口を開けたまま固まってしまった。
高専の皆には内緒にしているけれど、私とお兄ちゃんには血の繋がりがない。いわゆる、義兄と義妹。
そして、一線を越えてしまった男女の間柄でもある。
「私は母似だとよく言われるかな。ゆめは夏油家の奇跡だと言われてるね」
落ち着き払った態度の兄は、五条先輩に言葉を返しながら、ソーダ味のガリガ◯君のアイスの袋を開けていた。
ここは下手に言葉を発さずに、私はアイスを食べていよう。今日も暑かったから冷たいものが美味しい。
「だよなぁ。傑とゆめ、遺伝子の配分違い過ぎるだろ。前髪も傑と似てねぇよな」
そう言って笑う五条先輩は、ギロリと傑お兄ちゃんから睨まれていた。意外と指摘が鋭すぎて、こちらは冷や汗をかきそうだ。
「悟、あとで顔を貸してもらおうか」
「は……シスコン野郎が凄んでも迫力ねーな」
「これだから、五条家の一人っ子は口が悪くて困るね。躾がなっていない」
「あ?」
いつものようにケンカになる二人を眺めていると、溜め息が出る。
先輩二人の間に挟まれている一年の七海くんは、眉間に皺を寄せながらパックアイスのクー◯ッシュを啜っている。ブレない彼が、バニラ以外の味を選択しているのを見たことがない。
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