第31章 〇〇しないと出られない部屋
「困ったわ……誰か近くに人が来るまで、じっとするしかないかしら?」
とロード様は言うが、彼女はここの領地の主。彼女の仕事がまだあったはずだ。長時間この部屋に閉じ込めて置くのは良くはないだろう。
「ベアトリクスのことです。ずっと閉じ込めてはいないかと」
「そうね。今度はどんなイタズラをしたのかしら」
私の言葉に、なおまだ微笑みの崩れないロード様。前のベアトリクスのイタズラは、報告書に魔法の細工をしてロード様をびっくりさせることがあった。私はベアトリクスを説教したが、ロード様は笑ってお許しになった。
だから今回も、さほど大変なイタズラではないと読んでいるのだろうか?
「うーん……考えても分からないわね。どうやって脱出したらいいのかしら」と考える素振りを見せたのち、ロード様は何もないはずの天井へ目を向けた。「ベアトリクス、ヒントをくれない?」
「え」
まさかその一言でベアトリクスが答えてくれるはずないと私は思ったが、まさにロード様が見上げた空中から、その小柄な悪魔が姿を現した。
「仕方ないなぁ……じゃあヒントだけだからな!」クスクス笑いながらベアトリクスは宙をふわふわと飛び回る。「どっちか一人があることをすると出られるぞ!」
「あることを……?」
「じゃあ頑張れよ!」
私が首を傾げている間にベアトリクスはくるりと回ってあっという間にその姿を消してしまった。私はベアトリクスが残した言葉がどういう意味だったのかと頭を捻っていると、ロード様がこんなことを言い出したのだ。
「私、本で読んだことがあるわ。こういうの〇〇しないと出られない部屋、というものでしょ?」
「なんですか、それ……」
私は言葉を詰まらせる。私は、幼い頃から騎士になるように剣を振り続けていたから、本についてはあまり詳しくなかったのだ。ロード様の教養の高さに、私は関心するばかりだ。
ロード様は更に話し続けた。
「よくある話だと、お互いキスをしないと出られないという話ね。お互いキスをしてちゃんと愛し合ったのち、閉じ込められた部屋から脱出して結婚をするのよ。ふふ、素敵よね」
「ちょっと待って下さい……そうなると、私はロード様と、その……口付けをしないといけなくなるのですか?」
その言葉に私は内心焦っていたが、ロード様は変わらず楽しむように笑った。
