第21章 エレメンタリスト
古くなった城壁の張り替え作業を手伝っていると、ゾロゾロと人間の集団が近づいてきた。
ワタシは気にせず城壁の建材を積み上げる作業を続けていたが、周りの兵士や作業員たちが慌てて敬礼し出すものだから、ああ、彼女が来たのだと分かった。
「ラスマス、見に来たわ」
「ええ、そのようですね」
柔らかい声にワタシが振り向くと、ロード様とその護衛に兵士たちがゾロゾロといた。大方、城壁の視察に行きたいとロード様がワガママを言ったんだろうが、なぜヒーローが不在の時にわざわざ見に来たんだか。
「遠くから見ていたわ。魔法で積み上げていたのね」
とロード様はまだ足場だらけの城壁を見上げた。
「ワタシの使っているエレメントは魔法とは少し違う」
そうワタシが答えると、ロード様は目を丸くした。
「あら、そうなの? ルドルフやサラマンダーの使う魔法とは違うのね」
「ルドルフの使う魔法が本当に人間の魔法なら」
「え」
ロード様は不思議そうな顔をしていたが、ワタシはそれ以上語らなかった。永遠の時を生きる宿命を背負った者が使う力は、果たして本当によく見る魔法なのか。まさしく自然の摂理を仕方なくとはいえ破った彼が、ただの魔法使いとは言い難いものがあった。
「それより、城壁の強化は順調なので、何も心配することはないですよ」
とワタシは言ったが、ロード様はそんなことを気にはしていないのだろう。ロード様はワタシと目を合わせた。
「心配はしていないわ。見学に来ただけよ」
とロード様は笑ってはいるが、後ろにいる護衛たちがピリピリしているのは見てとれた。恐らくロード様は、急に外に出ると言い出したのだろう。
「終わったら報告に行きますので」
周りの護衛たちを振り回るのはやめて下さいね、とまでは言わなくても、ロード様は分かってはいるのだろう。
「ええ、待ってるわ」
そう言って立ち去って行くロード様の背中を見送りながら、彼女が本当に世界の均衡を取り戻す人物なのだろうかと半分疑わしく考えてしまう。ロード様は、気づいているのだろうか。このまま戦乱の世が続けば、いずれこの領地も滅んでしまうことを。
とにかく今は、エレメントの乱れの行く末を、見守ろうとワタシは誓った。
おしまい