第20章 演劇
「アルフレッド、お主もして欲しそうじゃな?」
そこに水を差してきたのはルドルフだ。私は何も言っていないのに。
「あら、アルフレッドも?」
「いえ、私は大丈夫です」
きょとんとするロード様に、私はきっぱり断るのだが、なぜかルドルフは引き下がらなかった。
「本当は羨ましいのじゃろ? 素直になればよいものの」
「ルドルフ、貴方という人は……!」
「はいはい、ケンカはしないのよ?」ルドルフと私の間に入ってきたのはロード様だ。「アルフレッドは、あとでしてあげるわね?」
「いえ、私は本当に何も……」
「ロード様の誘いを断るというのか? ルドルフよ」
「な……さっ?!」
ルドルフの言い方に私は言葉を失った。さ、誘い……?! 騎士たるもの、断じてそんなことはあってはならないだろう!
「フォッフォッフォッ、何を想像しているのかな、アルフレッドよ」
「そ、それは、ルドルフが……」
「はいはい、そこまでよ」またもや私たちの間にロード様が割り込む。「次は民たちへのホールの案内をしましょ。これで少しは心が癒えるといいわね」
そうして歩き出したロード様に、私は気を取り直してついて行く。ルドルフはアストレと一緒に舞台調整へと向かって行った。
娯楽は人の心を癒すという話は研究でも明かされている。
それから廊下に出るとロード様が急に振り向いて微笑んだ。
「では約束ですね」
「……?」
「アルフレッド、少し屈んでくれますか?」
「こうですか?」
私が屈むと、頬に柔らかいものに触れた。ロード様の香りが間近でして、私は一瞬息が止まる。
「では、行きましょうか」
ロード様は相変わらず優しい笑みで私の方を見る。私は、すぐに返事をした。
「お供します、どこまでも」
演劇ではない現実を胸に抱いて、私は歩き出した。
おしまい