第17章 一輪の花
「紳士な守護騎士も落ちたものだな。人の会話を盗み聞きしていたのか?」
どんなに素早く動いても微塵も動かないフードを深々と被ったまま、シュラウドは見えない目から私を睨みつけた。
私は両手を上げて正直に謝ることにした。
「確かに、私は聞いてしまった。そこは謝る、シュラウド。悪かった」
シュラウドからの返事はなかった。だが、刃物を下ろしてロード様から離れ、ゆっくりと低い姿勢になったかと思うと飛び上がり、瞬く間にその姿を消した。
「本当、シュラウドは早いわねぇ」
立ち去ったあと、ロード様は呑気にもそんなことを言う。私はロード様の方へ目を向けた。
「ロード様、シュラウドにエルフ族の話はしない方がいいかもしれません」と私は話し続ける。「シュラウドの恋人は、エルフ族だったと聞きます。エルフ族の話は、苦手なのかもしれません」
「ああ、やっぱりそうなのね」
ロード様はなんでもお見通しだったというのか。驚きもしなかったロード様に、逆に私が驚くばかりだ。
「ご存知でしたか」
「ううん。でも、そこの花」とロード様は花壇の花を指した。「その花は、人間の手によってしか咲かない花なの。野生じゃほとんど咲かない花よ。領地内でも昔からある古い森は限られてくるでしょう? 子どもの頃、一度だけ見たことがあって」
「この花を、ですか?」
「その花の原生種よ」ロード様は花壇の前でしゃがんだ。「この花は、元々はエルフ族の森にある野生の花から研究で作られた花なの。だからもしかして、エルフ族と関わりがあったのかしらって思ったのよ」
知らなかった。花には花の歴史があるなんて。
「博識ですね、ロード様」
「ふふ、ちょっとだけね」
私の言葉に、ロード様は少しだけ得意げだった。
それからロード様が花壇を見やるから、私も花を眺めることにした。シュラウドにもいつか、この花ように美しく咲く日が訪れたら、と思う。それがどういうことなのか私には分からない。ただ、花を愛でる気持ちがあるなら、シュラウドも、幸せになって欲しいと願っていて。
「綺麗ですね、アルフレッド」
「そうですね」
私はもう少し、ロード様のそばで花を眺めていようと思った。
おしまい