第12章 美味しいもの
「ふふ、食べるのが早いのね、さすがロック」
ロックフィンのことを、ロード様は度々ロックと呼ぶことがあった。それがロード様の、ロックフィンに対する愛情表現なのだと思われたが、当の本人は気にしていないのだろな。
「なんでも美味いからな。なんならこの皿だって食べてやる」
「お皿は何度でも使えるから、こっちを食べて欲しいわ」
なんでも食べようとするロックフィンに対し、ロード様は自分の食事をフォークに刺して差し上げた。見るとロード様、全然食べていない。
「分かった……ん、これも美味いな」
前まではフォークごと食べていたロックフィンだったが、ロード様が献身的に教えていく内に、本当に上手に食べるようになった。何より美味そうに食べるロックフィンを眺めるロード様が、楽しそうだ。
「ねぇねぇロックフィン、こっちも食べてくれる?」
と向かいの席から立ったのはジョアンだ。ジョアンの皿には野菜だけが残っていた。
「ロックフィン、食べる!」
「待て待てジョアン、好き嫌いはよくないぞ」
ロックフィンはすぐにジョアンから野菜を受け取ろうとしたが、私はつい、ヒーローとしてではなく、父親としての発言をしてしまった。ジョアンはええ、と文句を返したが、ロックフィンはなんで止めるんだと言いたげに魚のような目を私に向けてくる。
「なら、私が食べるわ」
そこにひょいっとジョアンの皿を取ったのはロード様だ。ロード様、と私が言いかける頃にはパクリとジョアンの野菜を食べ、残り半分をロックフィンにあげてしまう。
「どう? 美味しい? ロック」
「美味しい! 美味しい!」
ロード様の言葉を繰り返すロックフィン。やはり、最初会った時と比べると、優しくなったなぁと思う。
「あまり甘やかさないで下さいよ、ロード様」
私はロード様にそうは言ったものの、多分それは叶わないのだろう。
「ええ、気をつけるわ」
今日もロード様が笑っている。領地は明日も、平和なのだろうと思った。
おしまい