第5章 可愛いは正義
「にゃあん♡」
ある日の昼下がり。城内の見回りで廊下を歩いていると、唐突にリアが飛び出してきた。
獣人で妖艶な立ち回りを心得ているリアは、多くの人々を男女構わず魅力しただろうが、私に色仕掛けは通用しない。というか、彼女とは長い付き合いなので、もう見慣れた。
「今日も随分と元気なようだな」
と私が言うと、クスクスと笑いながらリアは答えた。
「やっぱり、貴方には効かないのね、アルフレッド」
リアの大きな瞳は無垢さを思わせる程だが、共に戦場を切り抜けてきた仲である私は、猟奇的な彼女の方がイメージが強い。頼もしい仲間だが、時々こうして私だけでなく、他のヒーローたちや兵士たちにもイタズラをしているみたいで目に余るところがあった。
「ほとほとにするんだぞ、リア」
と私が言っても、リアはのらりくらりと体をくねらせるばかりだ。
「ロード様に可愛いって言われたら、やるしかないじゃない」とリアは話す。「ロード様は言ってたわ。可愛いは正義なんだそうよ。貴方も好きでしょ? 正義とか、そういうの」
「それとこれは意味が違う」
「そお」
リアとは長い付き合いなので、多少冷たくあしらっても大丈夫だろう。私は冷静に言葉を返すと、やはりリアは怒ることも不機嫌になることもなく私を見つめるばかりだ。
その瞳。リアの目は、獣人というだけあって、人のそれとは全く違う。それは獣人に見慣れていない一般人ならまず恐れただろう。しかし、ロード様は違った。
「可愛い目をしているわね」