第3章 黒猫の足音、屋上を駆ける
部屋に立ち込める揚げ物の匂い。包丁がまな板を叩く音。そう、私は今、調理中である。お昼のお弁当作りの為に。何で朝練もあるこのクソ眠い中こんな事してるというと理由は簡単だ。
昨日鮭の塩焼き作るって言ったにも関わらず私の気分で晩御飯をパスタにしたら、クロが物凄く機嫌悪くなったから。
「全く、晩飯一つで拗ねないで欲しいわー。」
「…そりゃ悪かったな。」
「うひぁッ!」
「オイ、飛び上がるなよアブないだろ、油使ってんのに。」
「お前が音も無く後ろに立からびっくりしたんだよ!」
ぱちぱちと跳ねる油の音で全く気付かなかった。足音の無さもまるで黒猫かコイツは。眠たそうに大あくびしながらクロは揚げたばかりの唐揚げ摘んで口に放った。
「あっつ!」
「揚げたてなんだから当たり前だろ。」
綺麗に狐色になった唐揚げを1度バットに上げしっかり油を落とし冷ましてから弁当箱へ詰める。中身は勿論全く同じ。私が弁当を作っているのだからカロリー管理もバッチリだ。これでもクロは主将だからな…変に高カロリーなものは作りたくない。
ついでに炊きたてのご飯を茶碗に2杯分よそって、一緒に作っておいた味噌汁をお椀に注ぐ。後は昨日作る予定だった鮭の塩焼きに大根おろしを乗せてちょっと醤油を掛けて、お弁当に入れたあまりの卵焼きを添えて朝食も完成。
「ほらほら、さっさと運んでよ。」
「おう、助かる。」
「別にクロの為じゃないし、ついでだし。」
「それツンデレ?」
「ちがうわバカ!」
向かい合うようにご飯や味噌汁を並べ席に着く。手を合わせお決まりの食事の挨拶を済ませて味噌汁を啜った。美味い。暖まる。
「今日の朝練何すんの?」
「レシーブ練。まだまだ甘いからな、1年共。」
「あー、まぁね。ウチのプレイスタイルもあるしねぇ。」
「見どころあるやつも居るしな。今年こそ、全国行くぜ。」
「それ去年も聞いたわー。」
「…手厳しい。」
最後に残った味噌汁を飲み干しご馳走様、とだけ挨拶して食器を下げ手早く洗う。途中後から食べ終わったクロの皿も一緒に洗ってやりお弁当をしっかり包み渡しておいた。
「の手作り弁当か…中身全く同じだろ?」