第12章 黒猫、狐に逢う
「ここがイナリザキかぁ、兵庫の学校見に来たのは久々だなぁ。」
スマホのマップ機能を頼りに高校に着くと校門のすぐ側に立ってる男がいた。臙脂色のジャージを身にまとい、中から黒いユニフォームが覗いている。見覚えのある茶髪のその男は、俯きがてらにスマホを弄っていた。
「治!」
「お、ほんまに来よった。」
「いや呼んだのお前らやろ。」
こちとら貴重な部活休みの日に来てるのになんて言い草だ。治は両手を顔より少し低い位置まで持ち上げ手のひらをこちら側に向ける。なんだこれ、ハイタッチか?
「うぇーい!」
「うぇーい。」
「おわっ!」
手を振り上げ思い切り叩き付けようとした矢先、上げられた手が後ろへスイッと移動する。無意識に手のひらを追い掛けた身体の勢いは行き場を失い、そのまま若干前のめりになると治の胸板に顔面がぶつかる。意図せずとも抱き着くような形になると治の両腕が背中に回された。
「フッフ、甘いなぁ。捕まえたったわ。」
「お前しばらく見ん内に意地の悪さレベルアップしたんとちゃう?」
「それ程でもあらへんよ。」
「褒めてねぇよ。侑は?」
「アップ中。ジャンケンで俺が勝った。」
「えっ、ごめん治もはよちゃんとアップせんと。体育館どこ!?」
「急がんでも体育館は逃げんて。」
「アップの時間は減るやろが。ちゃんとせんと怪我すんで。」
「北さんみたいな事言わんでや。」
北さん…って誰だっけインハイ出てたか…?いや、多分出てないな。
治から離れ肩を並べて体育館に向かう。近付くに連れて活気ある声やシューズのスキール音、バレーボールが床を打つ音が聞こえてくる。双子の試合、生で見るの久々だな。去年のインハイ以来だっけ。春高は行けなかったから。
「…お前ホンマにバレー好きやな。」
「好きや!どのスポーツよりも1番面白い!……ん?私そんな顔に出てた?」
「ツムと同じくらいキラキラしとったわ。5歳児かと思うた。」
「誰が5歳だ。」
「俺がなんやてー!?」
体育館に着くと遠くから声が聞こえて来た。地獄耳かよ、よくこんな騒音の中聞こえたな。治がシューズに履き替える隣で私もカバンから取り出し履き替える。2階のギャラリーには既に人がチラホラいた。これは多分稲荷崎の生徒かな。見事に女の子しか居らん。侑は私と治を見るなり駆け寄って来て、両手を掲げた。
