第10章 黒猫ととある部活の1日
「研磨90点。」
「急に高いな!」
「そりゃもう研磨だからね。」
「幼馴染み贔屓じゃねーか。」
「クロにはマイナス補正からスタートだよ、頑張れ。」
「可愛くねぇー…!」
ひくりと頬が引き攣るクロ。そんなクロを置いたまま歩み寄って来たのは夜久ちゃんだった。ワクワクしながら待っていると、夜久ちゃんは不意に私の両手首を掴み持ち上げ、それごと壁に押し付ける。おお…!!手首ドンってやつ!ネットで見た!身動き取れないまま、夜久ちゃんを見詰めるとそれはもう、見たことない位愉しそうに口角を吊り上げていて。その綺麗な唇が耳へと寄せられ思わず肩が跳ねた。
「…?」
「は…はい?」
耳元に寄せられた声は静かで、夜久ちゃんにしては低い。これには思わずドキッとせざるを得なかった。
「ダメだろ、俺以外の男に抱き着いたら。」
「っ……!」
な…ッ、なん…なんだこれ…!本当にこれは夜久ちゃんなのか…!?あの名前で呼ばれただけで顔真っ赤にしてた男なのか…!?
頭の処理が追い付かず、ただぱくぱくと唇の開閉を繰り返す。すると、目の前で吹き出すような声が聞こえる。
「…ぶっ!」
「は…?」
「はははは!お前焦りすぎだろ!ドキドキした?」
「う……うるっさいな!!夜久ちゃんがそんなこと言うとは思わなかったんだよ!95点!!」
「って結構ちゃんと可愛いよなー。」
「黙れ夜久ちゃん!!!」
クソー、こんなチビにマジでドキドキさせられるなんて。不覚。悔しい。
「最後、俺だな?」
「クロって時点でときめく気がしないから目を瞑ろうか?ハンデ。」
「閉じなくてもときめかせてやるからこっち見ろよ。」
ニヤニヤと、まるでペテン師みたいな顔をしたクロが近付いて来ただけで私の警戒レベルがグンと上がる。ドキドキもワクワクも無くただ身構えていると、クロの片腕が、私の顔の横で肘までピタリと壁に付いた。また、顔が近い。鼻先がぶつかりそうな位。そして普段の巫山戯た表情ではなく何となく熱の篭った真剣な瞳。コイツガチかよ。空いていた片腕が視界の隅からゆっくりと持ち上げられると私の顎を捉え持ち上げる。…あっ、これ顎クイだ!