第10章 黒猫ととある部活の1日
朝起きて、いつも通りクロとご飯を食べて、いつも通り洗面台に向かうと、いつもと違う物が置いてある。
これは一体何だろう。
「…クロ、私の髪ゴム知らない?」
「そこに置いてあるじゃん。」
「いやこれじゃなくて。昨日買ったヤツ。」
「そこに置いてあるヤツでも良くねぇ?」
「……。」
いつも髪ゴムを置いてある所には、赤く細いリボンのついた物が代わりに鎮座している。いや、何でだよ。昨日帰ってからちゃんとここに置いたじゃん。何で変わってんだよ。
ゴムを掴み、知らん顔のまま隣でシャコシャコ歯を磨く男を睨む。
「…これは何?何で?」
「あげる。」
「いやいやいや。こういうの使わないっていつも言ってんじゃん。」
「赤葦から貰ったネックレスは着けるのに?」
「ぐっ……!」
何で誰から貰ったのかまで知ってんだよ…。まさか見てたのか。だとしたら全然気づかなかった。
「は〜……。」
「元々可愛いもんは好きデショ。たまには幼馴染の好意を素直に受け取っても良いんじゃ無いですか〜?」
「本当にクロは稀にとんでもなく強引だよね。」
可愛いものは好きだ。それは否定しない。でも自分に飾り付けたいかと聞かれれば答えはNOだ。だって似合わないし。ネックレスは制服着れば見えないからそんなに気にならないけれど、ヘアゴムは違うじゃん。
…なんて頭の中で文句を言った所で多分昨日買ったヤツは返されないだろうと思い、リボンがついた髪ゴムを摘んで半分を耳の下で結わう。
「お前さぁ、もう少し見た目に自信持った方が良いよ。危ねぇから。」
「いきなり何言い出すんだ。」
「昨日だって木兎に告白されてただろ。」
「まだ言ってんの?アレはその時のノリと勢いじゃない?本気じゃないでしょ。」
「ほらもうそういうトコだって!それに、殆ど名前も知らないようなヤツから告白されたりもしてんじゃん。ああいうのは絶対見た目から入ってるからな!」
「おぉ…今日は何時に無く噛み付くじゃん。どしたの。」
「これでも焦ってんの、ちょっと目を離した隙にどっかフラフラ行きそうだから。」
「私は猫か。」
こんなに嫉妬して、焦って、めちゃくちゃ好き、って全部顔に出てる癖にちゃんとした告白の1つもして来ない。…されても困るからいいけれど。