第9章 黒猫の笑い声
「クロ。」
「何?」
「まだ怒ってんの?」
「…怒ってねぇよ。」
「めちゃくちゃ怒ってんじゃん。」
「木兎に怒ってんの。」
「ふーん。」
横顔を見ると、やっぱりまだ唇を曲げている。そんなに私に恋人が出来るのは嫌なのか。
「、手ぇ出して。」
「手?」
「そ、手。」
「はい。」
言われた通り片手を差し出すと、クロの手が重なりスルリと撫でる。そして指が絡められ握り込まれた。所謂恋人繋ぎというやつで、向けられた瞳の真剣な眼差しにじわりと頬に熱が昇る。それを誤魔化すように直ぐに顔を背けたが多分、クロにはバレてると思う。
「木兎より俺の方がの事好きだと思うよ。」
「そんなの分かってるよ。」
「じゃあそろそろ観念して黒尾さんを彼氏にどうですかー?」
「考えておきますー。」
「つれないねぇ。」
「諦め悪いねぇ。」
このやり取りももう何度目か分からない。男に告白される度こんな軽口叩かれるもんだから慣れてしまった。臆病なネコちゃんめ。…まぁ、それは私も同じなんだけど。
繋いだ手に力を込めて握り返す。陽の傾き始めた夕暮れの中、他愛ない雑談をしながら2人で家に戻った。
*黒猫の笑い声*