第8章 黒猫、赤く染まる
「え…ッ……は、ハイ。」
驚いて、ベッドの端へ後ずさると壁に背中がぶつかった。囁かれた声が低くて、でもやっぱり優しくて。心臓バクバクいってるのが自分でもよく分かる。多分顔も、赤い。つい俯くとぎしりとベッドのスプリングが軋む音がして、顔を上げたら鼻先がぶつかりそうな程の至近距離。顔の横は腕が逃げ道を塞いでいて。射抜くような瞳に目も逸らせない。
「赤葦くん…?」
「まだ安心して俺と寝れると思いますか…?」
「う……む、無理…デス…。」
口を開けばお互いの吐息が顔に掛かる距離に私の思考はショート寸前だった。確かに、これじゃあきっと安心して寝ることは出来ない。私の心臓がもたないだろうし。
赤葦くんは、満足そうに頬を緩めベッドから身体を退いた。そして部屋の扉に手を掛け、出ていく寸前で挑発気味に瞳を細める。
「もっと男に対して警戒した方が良いですよ、さん。」
*黒猫、赤く染まる*
(あれ、あかーしと寝るんじゃなかったのか?)
(断られてしまいました、残念です。)
(お前絶対なんかしたろ。)
(……俺の幼馴染にあんまちょっかい掛けんなよ赤葦。)