第8章 黒猫、赤く染まる
首元にぶら下がった、貰ったばかりのネックレスを摘み指先で弄る。…あ、錆びちゃうし次からはちゃんと外した方がいいかな。……赤葦くんも、女の子らしい子が好きなのかな。というか私自身いい加減この口調直さないと、まずいよなぁ。頭では分かっているけど、この数年間男に囲まれて生きてきた私には少し難しい。
「女の子らしさ、か…。」
ざぱ、と音を立て湯船から上がる。バスマットの上で身体を纏う水滴を拭い下着を着てから寝巻きに着替える。ついでに長い髪をドライヤーでしっかり乾かしてから、リビングに戻った。…よし。試してみよう。女の子らしさってやつ。
「やーくーちゃん!」
「何?うわっ!!」
「うわって失礼じゃね?」
椅子に座っていた夜久ちゃんの後ろから顔を覗かせ、ちょっと中腰になって上目遣いで見詰めてみる。どうだこれだろ。
「…えーっと、睨んでる?」
「上目遣いだよ!!」
「あ、なるほどゴメン。」
「ぶっひゃひゃひゃ!睨んでるって!どんだけ上目遣い下手なんだよ!」
「うるせえ2度とやるかチクショウ!!」
上目遣い、玉砕。別に睨んでるつもりは無いんだけど!?何が足りないのかわからない…後で上目遣いをネットで検索してやろう。悔しい。
「なぁなぁ俺には!?俺にもやってくれよ!!」
「甘えるって何?具体的に何?」
「なんかこうー……構って欲しそうにするとか!」
「大雑把過ぎ!」
なんだよ構って欲しそうにって!私は顎に手をあてて首を捻った。構って欲しそうに…構って欲しそうに……。
グルグルと同じ言葉が頭の中を巡った末、よく分からなくなってきた。私は木兎の座る椅子付近にしゃがみ、ジャージの袖を摘んで軽く引っ張り首を傾げて見上げる。
「か…構って…欲しい…なぁ?」
なんだこれちょっと恥ずかしい。というかお前ら構ってって言う前に構って来るじゃねーか。思わず、直ぐに手を離し顔を背けた。
「イイ!今の結構良かったぞ!!」
「これで私も女か…。」
「いや、まず口調直そうぜ。女の子のチャン。」
「うるせーなわかってんだよ頭の中では!」
「うるさいわねわかってるのよ、頭の中では。はい言ってみ。」
「う…うるさ…い、わね…。」
「なんでより黒尾の方がスラスラ言えるんだよ。」