第2章 2人暮らし、始めました
「おーい、起きろよ。朝だぞ。」
「嫌だまだ眠い…。」
「部活始まるって。なんならキスで起こしてやろうか?」
「ううう…。」
4月中旬、朝。身体を揺さぶられ目を覚ますと目の前にはよく見慣れたトサカヘッド。……なんでこいつが私の部屋に居るんだっけ。アレ、ここ私の部屋だよね。上体を起こし眠気まなこを擦る。瞬きも繰り返してみる。けれど目の前の男は消えない。残念な事にこれは現実だ。
「…なんでアンタがうちにいるの?」
「寝ぼけてんですかー?昨日からコッチに住む事になったんでしょうが。」
「昨日……ア゛ッ!」
じわじわと意識がはっきりとしてくる。あぁそうだ。事の発端は、とてもシンプルなものだった。
仕事の都合で宮城に長期出張となった家族。いつ終わるのか分からないとはいえど、この一軒家に私1人そこに置いておくわけにもいかず。宮城について行っても良かったのだが行きたい大学は東京ということで、ここに残る事になった。けれど女の子1人は流石に、とか言い出した母親は幼馴染みであるクロと同棲は?なんてふざけた提案をしやがって。それを快く了承したクロの父親とその当人のおかげで、私とコイツは晴れて親の居ないこの家で二人暮らしになったわけだ。そして今日は、クロが越してきてから初めての朝。
…我ながらとんでもない話だと思う。一人暮らしをするより付き合ってもいない男と二人で暮らす方が有り得ないでしょうが。
「ホラ、さっさと食わねーと遅れるぞ!」
「ウゥ…何が悲しくて朝からクロの顔なんて見なきゃならないの…あ、いいニオイ。」
「朝飯抜きが良いのかなちゃん?」
「ごめんなさいありがとうございます。」
溜息をつきながらリビングに出てみると、食卓には既にズラッと料理が並んでいた。とはいえ、スクランブルエッグとハム、トーストされた食パンとかありきたりなものだけど。私より先に起きたから作ってくれたのか…。
「いただきます!」
「晩飯はお前作れよ、魚料理な。」
「はいはい、わかってますよー。うん、美味しい。」
パンにたっぷりイチゴジャムを塗って頬張る。やっぱ朝はパンだな。スクランブルエッグは丁度いい具合にトロトロだし、意外にクロは料理出来るのか…?いや、これだけかも。