第14章 三毛猫の独白。クロ猫の噛み跡
「おう!というかって本当にちゃんと料理出来たんだな。」
「え?こんな急に喧嘩売られる事ある?この前も作ったよね?」
「チャンの手作り料理毎日食えるの羨ましいだろ〜?夜っくん♡」
「うぜぇ。」
「痛てぇ!!」
ガタッ、と音を立ててクロが飛び跳ねる。多分足蹴られたな。
それから夕食と大量の洗い物を終えてから私は1人で女湯に向かう。なんだかんだちゃんと忙しかったなぁ…なんてぼんやり考える。明日は早めに起きて朝ごはん用意して備品の準備して…朝早いのやだなー。
明日のためにゆっくり休んで浴場から出る。後は今日使ったタオル、そろそろ洗濯終わってる頃だろうし回収して寝よう。
泊まっているのが私たち音駒しか居ないせいか廊下は真っ暗。別に怖いとか無いけど。ぺたぺたスリッパの音を鳴らし歩いていたら、一本道の途中にあった分かれ道からヌッと手が出て来た。反応するのよりも早くその手に手首を掴まれ、力任せに引っ張られた私は特に行く用事もない廊下へと連れ込まれる。
「何、なになに!」
「しー。」
スタスタと奥へ向かっていく男の背中に着いていくと途中でピタリと止まり手首ごと壁に押し付けられた。私よりずっと背の高い幼なじみの顔が月明かりに照らされる。そういえば前もこんなことあったっけ。
「急に何、びっくりする。」
「新幹線でのあれはなんだね。」
「新幹線…?まだ怒ってんの?」
「研磨はまだ分かる。お前が弟みたいに可愛がってんのは昔から知ってるし。けど夜久は違うだろ。」
「夜久ちゃんも甘やかしたくなるんだよ。何がダメなの?クロに迷惑掛けてない。」
「……ふーん。じゃあ今から俺が教えてやるから頭にちゃーんと入れておけよ。」
「何を……ひぇっ!」
そう言うと両腕で抱き締められ、クロの頭が首元に寄せられる。先に風呂を済ませていたのか濡れて垂れた髪が頬に当たって擽ったい。熱い息が触れて頭が真っ白になりそうで、心臓がバクバクと音を立てているのが自分でも分かる。何だ、何する気なんだこの男…!びっくりして肩を押し返そうとした刹那、ぬるりと濡れた感触が首筋を這い、次いで鈍い痛みが走る。…うわ、これ絶対キスマーク付けられた。
「…ぅ、や…辞め、クロ!」
「静かにしろって。」