第14章 三毛猫の独白。クロ猫の噛み跡
「全く、ウチのセッターくんは手が掛かるねぇ。悪い、俺の荷物運んでおいてくれ!」
クロは荷物を下ろし、私の手首を掴んで来た道を走って戻る。ここまでほとんど一本道だったし、どこかの分かれ道で逆行ったかな。
ある程度走った所で、走る速度を緩めたクロに合わせて徒歩に変える。
「宿から1番近い分かれ道はここか…ちょっと行ってみようぜ。」
「この先に居てくれると良いんだけど。」
「だな。」
走って暑くなったのかクロは着ていた赤いジャージを脱いで手に持つ。2人で並んで歩いていると、道の先によく知ったプリン頭が見えて来た。その隣には、太陽のように明るいオレンジ色の髪をした男の子が立っている。
「アレ誰だろ。クロ知ってる?」
「知らねぇ、絡まれてんのか?」
近づくに連れて、声が聞こえて来た。研磨はこっちに気付いていない。視線はゲームに落ちている。男の子はそんな事気にもせず声を掛けているらしい。
「じゃあさ、お前の学校って強い!?」
「うーんどうだろ。昔強かったらしいけど1回衰えて…でも最近は強いと思うよ。」
研磨の言葉にクロが目を見開いて足を止めた。あの研磨が、バレーを好きでも嫌いでもない研磨が、音駒を強いと言う。
研磨は分析が得意だ。敵チームを良く見て観察して、考える。まるでゲームを攻略するかのように。だからこそ音駒のセッターとして活躍している。今の研磨の言葉は自信とかそういう感情的なものでは無くて、音駒というチームを客観的に分析した上での言葉なのだ。
それを嬉しいと感じない筈がない。
「研磨!」
「あっ、クロとだ。」
「あ。」
「じゃあ──またね、翔陽。」
クロに呼ばれて研磨は慌ててこちらに駆け寄ってきた。そして太陽の子にひらりと片手を振る。よく見たら、胸元に"KARASUNOHighschool"って書いてある。…烏野の子か。もう知り合ったの?というか彼はバレー部か?小さいしリベロかな。
「勝手にフラフラすんな。」
「心配したんだからね。」
「ごめん。」
「というかさっきの子知り合い?」
「いや、んー……わかんない。」
「分からんのかい!」
「珍しいな、お前が人見知りせずに話してるの。」
「え?……そうかも。」