第2章 雪だるまと冒険家のお話
俺は帰らなくてはならないと丁寧に断って、地上への道を案内してもらった。好奇心旺盛なアレイが一匹だけ一緒について来て、暗い洞窟の中も空気が少し和んだような気がした。
ようやく洞窟の外へ出ると、久々に見るような太陽の日差しに俺は顔をしかめた。おらふくんはここまで来てもなお別れを惜しんだが、あまり人ではない者と一緒に長居することは難しい気がしたので、俺は謝ることしか出来なかった。
「あ」
さて、そろそろ出発しようとした時に、おらふくんが雪の中から何かを見つけた。覗き込むと、赤い鳥が横たわっている。
「可哀想に……怪我してる」
おらふくんはそう言いながら赤い鳥を抱えた。よく見ると鳥はオウムの仲間のようだ。
「その鳥、どうするんだい?」
俺が思わずそう聞くと、おらふくんからなんてことのないという目でこちらを見つめ返された。
「帰って怪我を治してあげるんよ。回復ポーションは作れそうだし」
「そうか……ならよかった」
と俺は答えながら、彼の優しさは誰に対しても振る舞われるものだと知った。おらふくんにとって、人間の俺も、怪我をしたオウムも、皆同じく平等な存在なのだろう、と。
「そーだ! この鳥に名前をつけてあげよ」誰に言う訳でもないようにおらふくんは呟いた。「ユメトって名前はどうかな?」
「それって……」
ユメト。それは俺の名前だった。
おらふくんはあどけなく笑って。
「僕、ユメトとのこと絶対忘れない。色々話して楽しかったし」
「おらふくん……」
ここまで来て、俺はこの雪だるまから離れ難い感情を抱いた。
「ありがとう、おらふくん。俺も、おらふくんのこと、忘れない」
「うん!」
俺の言葉に、おらふくんは元気よく返事をした。おらふくんの腕に抱かれたオウムは、安心したように眠りについている。彼の家に様々な生き物が住まう理由がよく分かる気がした。
「じゃあ……さようなら」
またいつか、とは言えなかった。おらふくんの家はなんの変哲もない氷の山に覆われた洞窟の中で、二度と同じ場所に戻ってこられる自信はなかったから。
それはおらふくんも気づいていたのだろうか。俺はいつまでも手を振り続ける雪だるまな彼に、何度も振り向いては手を振り返して、やがて木々の中へと踏み込んだ。
おらふくんの姿はもう見えない。だが俺は、また出会える日を願って、冒険家を続けている。
おしまい