第14章 夏 十三日目
「やっぱり、私も買おうかな。」
「何がいい?」
「パイン餡がいいです。」
「俺も気になってた。ん?何か、奥が騒がしいな。」
「多分、町から来たっていうルイ村長の・・・。」
「あぁ、女傑って言われてる人か。」
そんな噂話をしていると、その賑わしさが近づいて来る。トーヤさんが揚げパンを受け取り、再び私の手を握り締めた。この時、私は気付いていなかった。そんな私たちの姿を見た誰かが、怪訝な顔で見ていたなど。
「サクラ、帰るぞ。」
「はい。」
人の波に混ざりながら、静かな家までの帰路。フト、トーヤさんが立ち止まって振り返った。辺りを注意深く見回しているが、首をかしげては歩きだした。
「どうかしましたか?」
「いや・・・何か、物凄く不快な視線を感じた気がしたんだが・・・まぁいい。急いで帰ろう。」
また、マグかな?と思い、トーヤさんの手を強く握り締める。
「そんなに怯えなくても、俺がいるだろ?でも、あまり単独行動で敷地外に行くのは控えた方がいいな。後・・・。」
「えっ?あ、あのトーヤさんっ!!?」
家まであと少し。でも、トーヤさんはその場で、私を抱き寄せてはキスした。中々離してはくれなくて、呼吸が荒い。
「少しは雨よけになればいいんだがな。さ、帰るぞ。」
彼に手を引かれ、そのまま何事のなく家まで帰ることが出来た。帰ってからは、一緒にお風呂に入って一緒に就寝。
その頃・・・
「何なんだよ・・・何で、こんな村にアイツがいんだよ。それに、連れ立っていた男何処かで見たことがあった様な気がするんだが。」
一頻り考えた後、ある事に気付いた。
「あの男、確かアイツが推しだと言っていた男に似てる。まさか、俺はゲームの世界に来てしまったのか?ひょっとしたら、アイツは元の世界に戻る方法を知っているのかもしれないな。だったら・・・どうにかしてアイツが一人のところに近付いて状況を説明させないといけないだろ。しかし、何だよ・・・俺の方が若くてイケメンだろうが。」
「もうっ、こんなところにいた。今晩は宿屋で泊まるわよ。さ、行きましょう。」
男は同伴者に腕を掴まれ、連行されていった。