第13章 夏 十日目
指定のトウモロコシを湯がいては、七輪で醤油を塗りながら焼いていく。辺りには、いい香りが広がっていく。
「おおおおっ、力が漲る匂いだあああっ!!サクラ、俺は頑張るからなあああっ!!」
野太い声が、聞こえて来た。間違いなく、ボンさんの声だ。
ん?あっ・・・。
通路の物陰から、人がこちらの様子を伺っているのに気付いた。間違いなく、マグだ。じいいいいいっと、マグの姿を見ていると相手も気付いたらしく早々に逃げていった。
ボンさんたちが作業を終え、焼きあがったトウモロコシを我武者羅に食べている。その間、私はマグがこっちの様子を伺っていたことを話した。
「あぁ、やっぱりな。」
「どういうことですか?」
「ん?キアンに事情を話した後、偶然、マグを見掛けたから釘を刺しといた。」
「釘?」
「お前も農家をやってんだから、盗人には気を付けろって。キアンに被害届出したことも合わせて知らせた。ここの見回りが強固になったこともな。分かりやすいくらい狼狽えていたからアイツが犯人で間違いないだろ。」
「そんな事が・・・。」
「俺には、それくらいしか出来ないからな。」
ボンさんは、しっかり五本のトウモロコシを食べた後、持ち帰りで三本抱えてホクホク顔で帰って行った。
「あの人のトウモロコシに対する執念、凄まじいな・・・。あの焼いている匂いを嗅いでから、仕事が早かった。それより、一人で何とかしようとしないで偉かった。」
「私一人じゃ、どうしていいか分からなかったし・・・トーヤさんが頼れって言ってくれていたから。」
「それでいい。もう半分は夫婦みたいなもんなんだし、素直に夫に頼っておけばいい。俺は可愛い嫁の為なら、何だってしてやる。」
「トーヤさん、ありがとう。さて、時間は有限ですから洞窟に行って来ます。」
「こんな日まで行かなくても・・・って言っても行かない選択肢はないんだろうな。まぁ、今日はもう来ないだろうし俺も付き合う。」
さて、今日の成果・・・
賢者の石一個 オリハルコン五個 プラチナ三個 琥珀十個 金五個
である。琥珀はちょっと嬉しい。そして、トーヤさんが、温い目で見ていたけれど私は気にしない。
今日も、トーヤさんに癒される為に纏わりついた結果・・・散々な目に合うことになった。