第9章 春 二十五日目
朝起きれば、少しだけ見慣れたトーヤさんの顔が直ぐ傍にあった。私たちが付き合うことになり同棲を始めたことは、村の中で直ぐに広まった。
それにしても、綺麗な顔。ずっと見ていられる。
「・・・サクラ、見過ぎ。」
「えっ?す、すみません・・・。」
「って、どうして逃げようとする?」
「き、気のせいでは?」
「ふ~ん・・・気のせいか。じゃあ、言葉通りに逃げるなよ?」
あっ、と思った時には遅かった。腰に回されていた腕に引き寄せられ、朝から結構激しいキスをされる羽目に。呼吸もままならない私は、トーヤさんの胸を叩く。死んじゃう。呼吸困難で死んじゃうから。
そして、それは昨日のある事が原因。
「ホラ、今の内に呼吸を整えろ。」
「だ、だから、朝っ・・・。」
全然、逃がしてくれない。嫌、そもそも逃げたいと思ってもいないのだけど。でも、これはちょっと・・・苦しい。トーヤさんは本気モードだ。ううっ、唇が腫れそう。それに、トーヤさんの舌使いが卑猥。
「分かってると思うけど、同じ事をしたら寝室に連れ込んでそのまま抱くからな?」
トーヤさんがこうなった原因は、昨日のウチの敷地に迷い込んできた観光客が原因。今日は村あげての料理祭りのイベントの日だ。そのイベントを見に来ていた観光客だったのだけど・・・。
私にべたべた触って来ては、イベントを案内して欲しいなんて言われてたんだ。たまたま、トーヤさんが用事があって家に戻って来たんだけど、そのやり取りをバッチリ見られてた。
直ぐに引き剝がしてくれて、事なきを得たのだけど。去り際に、投げキッスしながら「またね~?」なんて言われたものだから、トーヤさんの機嫌が悪いことに。
「トーヤさん・・・。」
「何だ?」
「好きです。」
「お前・・・ここで、それを言うか?」
「何度だって言います。私にその他大勢は必要ないんです。私はトーヤさんを愛していますから。」
「あ~、うん、分かった。ま、ありがとな。俺・・・すっげー愛されてんだな。でもな?二度目はないからな?」
「勿論です!!」
「ホント・・・サクラって、俺のこと好きだよな。」
何を当たり前のことをと言う顔でトーヤさんを見れば、可笑しそうに笑いだした。
「分かった、分かった。俺の負けだ。さ、起きるか。腹減った。」